野崎ニーナ Nina Nozaki
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野崎ニーナ・詩と絵画の世界について 
 
三珠アケミ
 
  • 野崎ニーナが過去に刊行した詩集は、ほとんどが少部数で自費出版された個人的なものであり、現在はいずれも絶版である。
    中古市場での入手は、たいへん困難だろう。
  • 彼女自身、元々、作家意識が稀薄な人であり、ただ自分のためにだけ詩を書いていたと語っている。事実、現在まで、文壇とも画壇とも無縁で来た孤独な人であり、雑誌にすら発表したことがなく(彼女は、詩の雑誌が大嫌いで、見ると吐き気がすると言っている)、そういった世界にはまったく興味がないとも公言している。
  • だが、それゆえにと言うべきだろうか、野崎ニーナの詩には、現代の「詩人」たちが失ってしまった、あまりに純粋な魂のきらめきというようなものが見られる、というのは、昔からよく言われてきたことだ。
  • 片や野崎ニーナは、ヒッピーや芸術家の友人たちとの交流から、自分が趣味で書いていた詩や絵を捧げたり提供したりするようにもなっていった。その多くは音楽家やバンドであり、彼らのCDのジャケットなどを担当するようになったことから、最初、音楽の世界で彼女は「画家」として秘かに注目されるようになっていった。
  • 具体的には、ニューヨーク(現在はワシントン)のサイケデリック・トランス・ユニット「幻覚植物研究所(Psychedelic Plants Research Laboratory)」、いまや伝説的存在ともなった日本のアンダーグラウンド・レイヴ・バンド「ファー・イースト・アシッド・ハウス・クワルテット(Far East Acid House Quartet) 」、それにシンセサイザー奏者・作曲家の芙苑晶など、電子音楽やクラブ、ハウス系のアーティストが多かった。
  • そして彼女は、そういったアーティストたちとの交流の中で、しだいに表現者としての自分に目覚めていった。彼女の詩集は、少部数ではあったが、こういったクラブ/レイヴ系の若者たちに支持され、結果的に、90年代の、ネオ・ヒッピーとかレイヴ文化の中での、ひとつのイコンになっていった。彼女のヒッピー的なキャラクターも、こうしたアーティストたちにピッタリ呼吸が合っていた。
  • 具体的には、一番印象に残っているのは、ファー・イースト・アシッド・ハウス・クワルテットの最後のアルバム『太陽黒点』に提供された、『鳥葬』である。この曲に入っている詩は、元々、そのままの題名で野崎ニーナが書いたものが、音楽グループのアルバムに収められたという、珍しいものだ。
  • 1997年に出した最後の詩集『盲いた蝶たちの歌』を最後に、彼女はそれきり詩を書かなくなってしまった。いや、書いていたのかもしれないが、これを最後に、現在(2005年10月末)に至るまで、ただの一編の詩も発表せず、もちろん詩集も出ていない。
  • だが、彼女の詩と絵の世界(どちらかというと、とくに詩人としての仕事かもしれない)は、皮肉なことに、それ以後、少数ではあるが熱烈な読者を獲得し、その独特の繊細で強烈な感性で描かれる世界は、口から口へ、人伝に広まり、彼女の詩集を手に入れたいと言う、おもに若い人たちがしだいに増えてきたのである。
  • 詩だけではなかった。1998年以後、野崎ニーナは、ほとんど創作活動をやめてしまった。彼女は放浪生活をやめ、ある事務所に就職して働き始めて、それ以前のような創作意欲を失ったのだと語っている。
  • 以後は、芙苑晶のリミックス・アルバム『宇宙論入門(A Guide To Cosmology)』のジャケットを担当したり、「浅川瑠衣」名義でグラフィック・アートの個展を開いたりもしていたが、それ以後はまったく音沙汰がなく、彼女は人前から姿を消してしまっていた。
    まるであの、ランボオのように ---。
  • 最近、厳密に言うと、2005年に入って以後、ファー・イースト・アシッド・ハウス・クワルテットのファンサイト「無法的熱狂祭」を立ち上げるために、私たちスタッフは、野崎ニーナに連絡を取った。

    彼女は、以前とは打って変わって、おだやかに、平凡と言っていいほど、静かな暮らしを送っていた。
    「野崎ニーナの詩は、一部の若い人のあいだで熱烈に人気があるのよ」と私が言うと、照れながらも喜んでいた。

    詩集を再版する気はいまのところ彼女にはないが、もしこのまま読者が増えていけば、彼女が望むと望まざるとにかかわらず、それは再び陽の目をみることになるに違いない。だが、野崎ニーナ自身は、はたの者が驚くほどに、そういうことに全く無関心な人だ。

    彼女は、全くなんの野心もなく、また、自分が芸術家だという意識さえ持っていないかのようだ(それらしき発言はまた、彼女の数少ないインタビュー等に見ることができる)。だが、そんな、今日では珍しいくらいの純粋な人だからこそ、あんな詩が書けたのであり、人を感動させることができたのではないかと、私は最近思っている。
  • そんな人だからこそ、このサイトがきっかけとなって、より多くの人に彼女の存在が知られ、この、表現不毛の時代に、あのすばらしい、原石の輝きを持つ詩が蘇ればいいなと願っているのは、私だけではないだろう。
 
(みたま あけみ・「地下室」編集・主宰)  
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